難関大の総合型選抜は通信制高校から可能? 厳しい現実を元教員が正直に解説します

通信制高校や不登校から大学進学を考える方に向けて、総合型選抜について解説する連載も、これで三本目になります。

一本目では制度の基礎を、二本目では「難関大を除いた総合型選抜」の実態をお話ししてきました。今回がシリーズ最終回、扱うのは難関大学の総合型選抜です。

難関大の総合型選抜については「簡単ではない」「特殊な体験が必要」「探究活動が大事だ」ということが、世間でもよく言われています。「簡単ではない」という部分についてはその通りです。ただ、少しだけずれているところがあります。

それは、難関大の総合型選抜の性質です。世間で言われているのとは異なり、特殊な体験や探究学習での成果をポートフォリオ(活動実績一覧)に記載し、その肩書でもって合格するといった試験ではありません

この誤解は、受験業界が意図的にねじ曲げたことで広まったとは考えていません。むしろ、保護者や受験生自身が、自分の知っている範囲で「肩書きや実績で合格が決まる試験」をイメージしてしまっているために、実態とは違う語られ方をしているというのが大きいと思います。

そのズレを正すのが、今回の主題です。

タイトルにも総合型選抜とありますが、難関大、特に国公立大学では、総合型選抜と似たような性質をもつ選抜方式として、学校推薦型選抜公募推薦と呼ばれているものがあります(指定校推薦ではありません)。以降、特に触れませんが、こちらの方式での入試を考えている方にとっても参考になるはずです。

なお、簡単に自己紹介しておくと、私はもともと高校で教員をしていた人間で、これまでにも多くの受験生を送り出してきました。また現在は、オンラインフリースクールを運営しているものの、総合型選抜の対策を売る塾を営んでいるわけでも通信制高校を運営しているわけでもありません。だからこそ、フラットな立場で正直にお伝えすることができます。

難関大の総合型選抜は何となくで受けても落ちます

最初に、はっきりお伝えしておきたいことがあります。

難関大学の総合型選抜の実態は、二本目でお話しした「難関大を除いた総合型選抜」のそれとは、まったくの別物です。普通の高校生が、特段の準備もないまま「なんとなく受けたらワンチャンあるかも」という入試ではありません

ワンチャンありません。無謀です。

時折、「面接で決まるのならまぐれもあるから挑戦する意義はある」とった主張を見かけますが、そうではありません。選考過程をみても、総合型はまぐれが起こりにくいような入試です。

準備に時間をかけたのに不合格になってしまった場合、受験期の大切な数か月を失ってしまうことで、一般選抜での逆転合格からも遠のくことにもなります。準備にかけた大金も失ってしまいます。そして、不合格となった場合、一般選抜ならば受験学力という能力が残りますが、総合型選抜にはそういったものが残りません。

難関大の総合型選抜は、その難易度と仕様を直視した上で、本当に覚悟を持っている人だけが挑むべきものです。

では、いったい誰が受かるのか。

これはよく言われるように、多くの場合、子どもの頃からそれに向けてさまざまな投資を受けてきた層です。早い時期からの留学や、研究的な活動、コンテストへの挑戦などを家庭が支えてきたようなケースです。

このような性質から、難関大の総合型選抜の合否は家庭の影響が半分くらいあると言われることがあります。私も、これ自体は間違いではないと思います。

ただし、ここから先に大きな誤解があります。次の章で詳しく解説していきます。

大学が見ているのは「実績」ではなくその人の「翻訳力」

先ほども触れたように、難関大の総合型選抜に対してのよくある誤解は、これまで積み上げてきた肩書きや実績、いわばポートフォリオで勝負が決まるという思い込みです。

私の知る限り、これは正確ではありません。

たとえば、科学オリンピックで活躍した生徒が難関大の総合型選抜に落ちた例を見たことがあります。英検一級を持っている生徒が落ちたのも見たことがあります。実績だけで決まるならばこうしたことは起こらないはずです。

では、大学は何を見ているのか。よく言われるように、その大学が求める学生像と合っているかどうか、つまりアドミッションポリシーとのフィットです。

ただ、大学教授が具体的にどこを見ているのかは、実のところ、簡単に言葉にできるものではありません。あえて言うなら、その人の学究心が「本物かどうかを見ている」という感じでしょうか。

そして、その本物らしさをどう確認しているかといえば、自分がやってきた経験を自分の言葉でどう語れるかです。自分の体験ではなく、体験を言葉にする過程です。つまり、自分の知識や経験の「理解度」や「翻訳力」こそが重要なのです。

多くの方が誤解しているのは、実績の積み重ねそのもので合否が決まると考えている点です。ですが実際には、実績の多寡はあまり問題ではなく、それ自体はスタート地点にすぎません。そこから何を学び、どんなことに関心を持つようになったのか。その中身こそが見られているのです。

もう少し具体的にいうと、大切なのは規模ではありません。

海外留学でいうなら、一か月間行ったらプラス一点、半年ならプラス二点、一年以上ならプラス三点、というふうに、期間や規模で機械的に加点されるわけではないのです。もちろん、そうした採点をする総合型選抜もどこかにはあるのかもしれませんが、難関大はそうではありません。したがって規模を盛る必要もありません。

では、何が見られているのか。

くり返しになりますが「翻訳力」です。海外留学であれば、そこで何を学んだのかです。語れる中身に対して評価がつくのであって、留学という事実そのものに評価がつくわけではありません。

規模を大きく見せようと盛れば盛るほど、「これだけ経験しているはずなのに、この子はこれしか語れないのか」とがっかりされ、かえってマイナスになることすらありえます。逆に、日常のほんの些細な経験から、研究につながるような学術的な視点を明晰に語ることができたら、大学教授からすれば「原石を見つけた!」とばかりに高い評価をすることでしょう。

この点で、私は、昨今の「子どもに特殊な体験をさせた方が大学受験に有利だ」という風潮にも疑問を持っています。子育てとしての是非はともかく、受験対策としては逆の場合がありうるからです。

つまり、試験官が、たくさん体験しているはずなのに中身が薄いという印象を受けたら間違いなく落ちます。そのことをふまえると、特殊な体験はむしろ過少報告した方が得なようにさえ感じます。

最近では「体験格差」という言葉が誤った意味で用いられ、総合型選抜に受かるには体験が重要なのだというロジックを語る人もいます。体験格差という言葉の用法としても不正確なのですが、仮にそれが正しかったのだとしても、体験の規模で合格が決まるという考えは間違いです。

そうではなく、体験の「理解度」や「翻訳力」で決まるからです。

なお、こうした見方は私独自の主張というよりも、様々な大学教授がメディアで同じようなことを語っています。ですので、おそらく大きくは外していないであろうと思われます。

どれくらい難しいのか――倍率・難易度・準備期間

では、難関大の総合型選抜が実際どれくらい難しいのかを見ていきましょう。

まずは倍率です。

日本で最初にAO入試を始めた慶應義塾大学のSFC(総合政策学部・環境情報学部)は、出願にほとんど条件がなく、誰でも出願できることで知られています。ところが、その分だけ志願者が集まり、倍率は決して低くありません。近年のデータでは、総合政策学部がおよそ5.7〜5.9倍、環境情報学部がおよそ4.8〜7.0倍となっています。

「条件がゆるいから倍率が高いだけでは」と思われるかもしれません。ですが、出願に条件のある大学でも、倍率は決して低くないのです。

たとえば早稲田大学の総合型選抜は、学部や方式によって幅がありますが、多くで2〜3倍以上、地域探究・貢献入試のような狭き門では、その年の合格者が出ないこともあるほどです。したがって、出願条件がゆるくても厳しくても、難関大の総合型選抜の倍率は低くない、という点は共通しています

以下にこれらの出典元をご紹介します。

(慶應SFCが2025夏秋AO(2026年度入学)の募集要項を公開 | 洋々LABO)
(早稲田大学の総合型選抜(旧AO入試)と推薦入試の特徴と対策方法を学部別に大公開 | 総合型選抜(旧AO入試)対策の専門塾ホワイトアカデミー高等部)

倍率だけでは難易度を語ることはできません。難易度はどうなのでしょうか。

難関大の総合型選抜は、一般選抜より易しいとはとても言えません

私自身、東大や京大の推薦で落ちて、その後あらためて一般選抜を受けて合格した生徒を知っています。東大や京大は、多くは総合型選抜ではなく学校推薦型選抜(公募型)なのですが、入試の性質としては似たようなものだと考えていただいてかまいません。

推薦で面接まで進んで落ちた子が一般でリベンジできた、ということです。つまり、面接合格のハードルは超えられなかったが、筆記合格のハードルは超えられたということでもあります。

もちろん、だからといって一般より総合型のほうが難しいとまで言うつもりはありません。

逆に、総合型で受かった子の中には、一般選抜では受からなかったであろう子もたくさんいるからです。ただ、難関大の受験において、「一般より総合型のほうが易しい」というのは明らかに言い過ぎです。求められる能力が違うだけで難易度は大差ありません。

これは受験の現場を見てきた人であれば、おおむね一致する感覚だと思います。

費用の面にも触れておきます。

難関大の総合型選抜では、専門の対策塾を利用する受験生も多いのですが、その費用は決して小さくありません。総合型選抜の対策塾の相場は、合格までの総額で80万〜100万円程度になることも珍しくないとされています。

月あたりの相場はおよそ5万〜6.5万円で、高校1・2年から通えば合計100万円を超えることもあります。もちろん塾なしで合格する人もいますが、それだけのお金をかけて準備する受験生が一定数いる世界だということです。

そして、それはあくまで出願書類や面接などの対策にかけた費用です。その前に、強みづくりのため、海外渡航等、多額の費用を投じた家庭は少なくありません。こちらについては天井知らずだと思われますが、具体的な金額が想像できないので、数字を出すことは控えます。

準備期間についても同様で、ひとことで何か月くらいとは言えません。

一、二年かけて取り組む子もいますし、探究学習となると、高校入学よりも前から少しずつ続けてきたという人も少なくありません。逆に部活引退後の2~3か月しか準備しなかったけど難関大に合格したという人もいます。

とはいえ、その場合、本当に2~3か月しか準備していないと言えるのでしょうか。

というのも、総合型選抜のための準備という意識でなくても、たとえば子どもの頃から建築が好きで、あちこちで建築物を見て写真を撮ったり調べたりしてきたという積み重ねがあれば、それは受験勉強でなくても総合型選抜では役に立ちます。このような期間は通常、準備期間に加わることはありません。

このような性質をもつため、準備期間を単純に日数で測ることはできないのです。

ただし、次のことは確実にいえます。

完全にそれだけに打ち込む期間、つまり一日の大半を志望理由書の添削や面接練習に充てるような期間だけでも、数か月はかかります。これにより、大学受験業界ではよく知られている話ですが、総合型選抜と一般選抜の両方を追うと損をしやすくなります

総合型選抜に落ちたら一般選抜で頑張るという二段構えの作戦を立てた場合、総合型に注力したその数か月のあいだは、どうしても一般選抜の勉強がおろそかになります。時間には上限がありますから、これは仕方のないことです。

そうすると、総合型選抜に落ちてから慌てて一般選抜のために勉強するも間に合わないという最悪の結末を迎えてしまうことになりかねません。二兎を追う者は一兎をも得ずというようなことが往々にして起こりえるのです。

そのリスクを承知の上でなら、両方に挑戦すること自体が悪いとは思いません。ただ、総合型選抜は、準備には相応の時間がかかり、「なんとなく受かる」ものでもないという事実は念頭においてください。

倍率は高く、難易度は高く、費用と準備期間はかかる。

それでも一般選抜とは違った能力で合格を狙えるのが、難関大の総合型選抜です。

通信制高校・不登校から難関大の総合型は目指せるのか

では、通信制高校や不登校という状況から、難関大の総合型選抜を目指すことは可能なのでしょうか

結論から言えば可能です。

出願に高校の許可は要りませんし、置かれた状況によって不利になるとも限りません。ただし、インターネット上では、「通信制だと全日制より総合型で有利」という趣旨の発言をたまに見かけますが、それはそれで疑わしいと考えています。

これまで述べてきたとおり、難関大の総合型選抜は倍率も難易度も高く、時間をかけたら受かるというような単純なゲームではないからです(むしろそれに近い性質を持つのは一般選抜の方です)。もちろん、日中の時間がかけられることは多少は有利に働くものの、通信制ならではの「特殊な体験」で合格が一気に近づくというほどのアドバンテージはありません

一般選抜のほうが受かりやすいとまでは申しませんが、「通信制から難関大を目指すのなら総合型が最適だ」「総合型なら全日制よりも通信制の方が有利なのだ」という、最近よくみかける受験の新常識なるものは疑うべきです。

前回の記事の内容をふまえていうならば、そもそも定員割れしている大学ならば全日制からでも通信制からでも高卒認定からでも関係なく普通に受かります。問題は難関大学の話であり、そのレベルとなると、日中の時間が使える程度のアドバンテージであっさり入れるほど甘くはない、ということです。

いずれにしても、本記事の主な主張は以下の通りです。

全日制でも通信制でも関係なく、難関大の総合型選抜は難しい。一定の倍率が発生している以上、そして大学側が真剣に人物を選考している以上、偶然受かることはありません。

「ワンチャンあるかもしれない」という発想は捨ててください。本当に大学側が求めているタイプの受験生が、そのことを言葉で説明できたときのみ、受かるべくして受かるものです。(大学の体育会とのコネクションといった別の事情がある場合もありますが、ここでは触れません。)

公平のために申し添えれば、これは一般選抜でも同じです。学力がなければ、まず受かりません。

結局のところ、総合型選抜と一般選抜、どちらの入試であっても、難関大の壁を突破するために必要なのは、地に足をつけて自分の力を伸ばすことなのです。

おわりに|基礎学力を大切に

最後に、改めて申し添えておきたいことがあります。

ここまで難関大の総合型選抜の話をしてきましたが、以前にも述べたように、難関大でない大学に総合型選抜で進むことを、否定しているわけではありません。

学歴がすべてだとは露ほども考えていませんし、受かりやすい入試を方式を探して受験することも否定していません。定員割れしている大学(例えばボーダーフリー大学とかFランク大学と呼ばれる大学)を見下してもいません。

どんな大学であっても、入学方法であっても、重要なのは入学後です。

入学時の偏差値は重要ではありません。どんな大学でも等しく、学び、卒業して、社会で活躍することは素晴らしいことです。ムダではありません。

そのうえで、お伝えしたいことがあります。

昨今、総合型選抜などが賞賛される一方で、一般選抜で問われる基礎学力が軽視されがちです。しかしこれは危険な兆候です。学力は、学歴のためだけに価値があるのではなく、人生を通じて必要なものです。

「大学に入れさえすればいい」と考えて、勉強から離れてしまうのは、本当にもったいないことです。基礎学力は、就職のときか、そうでなくとも働き始めればどのみち必要になります。働かなくても毎日の生活であった方が得をします。

結局のところ、ここから逃げることはできません。

ですから、どうか「通信制で総合型から大学に入るのが最もラクだ」などという甘言に惑わされず、日々の学習をがんばってもらいたいです。そこには大学受験とは別の本質的な価値があるからです。

今回の3本の記事が、総合型からの大学入学を考えるうえでの、確かな土台になれば幸いです。

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通信制高校からの大学受験で本当に必要なのは、どのような受験制度を利用するかなどの戦略と、それに向けた必要十分な努力です。特に難関大学を目指す場合、その努力は日々続ける必要があります。

Schorbitは、通信制高校生・不登校の高校生・高校中退者が大学入試を目指すためのオンラインのフリースクールです。

決まった時間に全員で授業を受ける形ではありません。一人ひとりとの面談を中心に、何をどれくらい学習するかを一緒に決めながら、理解度を都度確認し、受験までの道のりに伴走します。

総合型選抜か一般選抜か。

どちらを選ぶにしても、通信制という自由な時間をちゃんと前に進む時間に変えていく。それをひとりにせず一緒に考えるのがSchorbitの役割です。

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