「公務員が一位」調査が示す中高生の安定志向──進路支援・キャリア教育の課題 25/08/17

ソニー生命が「中高生が思い描く将来についての意識調査」は、現代の子どもの心理に迫るとても興味深い調査です。毎年実施されているのですが、今年度の結果が7月31日に公表されました。

中高生が思い描く将来についての意識調査2025 | ソニー生命保険

まだまだ人生経験の浅い子どもですから、毎年、違った特徴をもっています。今年も昨年と比較して大きな変化がありました。

男子中学生の「なりたい職業」で初めて公務員が第一位となったのです。これまでトップを維持してきた「YouTuberなどの動画投稿者」を上回り、「安定した職業」に人気が集まったことは、社会全体の不安定さを背景とした強い安定志向を映し出しています。

(中高生が思い描く将来についての意識調査2025 | ソニー生命保険)

他にも、中学生では「自分は陽キャ」と答える割合が多い一方、高校生になると「陰キャ」と自認する割合が増えるという、自己認識の変化も明らかになりました。中高という成長過程で、友人関係や学習環境が変わり、自己評価が揺れ動く様子が読み取れます。

今回は、これらの調査結果を参照しながら、現代の子どもにとって必要な進路支援とは何かを考えてみましょう。


公務員志望になる中高生の本音

なぜ多くの子どもが公務員を志望するようになったのでしょうか?

「公務員」という答えが1位になった背景には、景気や社会の不安定さだけでなく、学校や家庭での隠れたカリキュラムによる影響も考えられます。「キミは公務員になりなさい!」と直接的な声掛けをする親や教員はほぼいないでしょう。しかし、親や教員、あるいは他の親族、地域住民といった身近な大人から、公務員だと「安定している」「将来が安心だ」という言葉を聞くことで、次第に安心できる進路を選びたくなっていく。そのようなことが自然に起こっているのだと思われます。

もっというと、「これからはVUCAの(予測不可能な)時代だ!」といった形で、将来の不透明感を強調した言葉を多く見聞きすることで、不安を煽られている影響もあるのかもしれません。

しかし、ここでいう公務員とは何でしょう?

おそらく市役所勤務などの一般行政職(事務職)をイメージしているのだと思いますが、そもそも一口に公務員にいってもその職種は多様です。

それもそのはずで、公務員とは職業ではなくある特殊な役割のことを指すからです。警察も、教員も、自衛官も、官僚も、国会議員も、裁判官も公務員です。それぞれは職業ですが、それらを集めた公務員は職業とはいえません。公務員なる職業はないのです。

そうしてみると、「将来は公務員になりたい」と語る中高生の本音は何でしょうか。

「自分は将来、どんな働き方がしたいのかよくわからない。でも、安定した生活がしたい」

きっと、このようなものではないでしょうか。

公務員が一位になったという事実から読み取れるのは、将来の目標が明確になっておらず、なおかつ将来に不安を抱えており、安定を切望する、そんな子どもたちの姿です。


進路指導の役割とは?

将来について考える時間は子どもにとって重要なものですが、学校はそれに対してどうアプローチしているのでしょうか?

かつての学校に比べると、今の学校はキャリア教育に大きな比重を置くようになりました。「総合的な探究の時間」などを用いながら、将来のさまざまな生き方を学んで、自分が何をしてみたいか考える機会を増やしています。

キャリア教育はその手段もさまざま。座学で自己理解を深めてみたり、講演をきいたり、職場体験をしてみたりといった多様な形で実施されています。(教員からすると大変な仕事です)

進路指導というと、「〇〇高校を目指して勉強しろ!」「〇〇大学には受からないからあきらめろ!」といったアドバイスをすることだったり、受験問題の解法を教えたり面接対策をしたりといった受験合格のサポートをすることといったイメージをお持ちかと思います。

しかし現在はそれだけでなく、こうしたキャリア教育にも力を入れるように変わってきているのです。

とはいえ――それでも多くの子どもが「なんとなく公務員」と回答している現実があります。キャリア教育のアプローチが間違っているわけではなくとも、十分には浸透していないということでしょう。

キャリア教育としての「自己理解」

もう1つのポイントを取り上げます。

今回の調査が示した「中学は陽キャ・高校は陰キャ」という自己認識の変化は、キャリア教育を考える上で重要なヒントになります。

(中高生が思い描く将来についての意識調査2025 | ソニー生命保険)

上のグラフに表れている通り、中学生では自分を「陽キャだと思う」が優勢であったのに対し、高校生では「陰キャだと思う」が優勢になっています。これはあくまで自己イメージの変遷にすぎず、その人の性格そのものが変わってしまうことを意味しないことに注意が必要です。(中学生より高校生の方が暗いというイメージを持っている人はそう多くはいないでしょう。)

もう1つ前提として抑えておくべきは、「陽キャ」も「陰キャ」も本当はいないということです。人間だれしも明るい部分と暗い部分を持つものです。ずっと片側に立ち続けることはありません。自分をどちらとみなすかというのは、どちらの側面も存在することを知ったうえで、どちら側を自分の本質とみなすかに過ぎません。

そのうえで、このデータから理解すべきことはなんでしょうか?

思春期の子どもは環境の変化に敏感で、ちょっとした変化ですぐに自己認識が移ろいでしまうものだという認識を新たにすることです。例えば中学時代は昼休みを5~6人でわいわい食べていたから陽キャだと思っていたものの、高校時代は1~2人で食べているから陰キャだと思うようになったとか。人生のある瞬間の、周囲にいる友だちの人数というちょっとしたファクターを自分の本質と思い込んでしまうのです。

自分を「陰キャ」だと思い込んでいる高校生は、実際には明るい面も暗い面も持っていますし、その自己認識でさえ数年経てば変わってしまうのです。にもかかわらず、自分のこの暗い性格は一生変わらないと思い込み、悩みを抱えてしまいます。その悩みは自身の進路を方向付ける大きな材料となりえます。(自分は陰キャだから営業の仕事には向かない、とか)

進路指導をする際は、まず本人にこの自己認識の移ろいやすさを自覚させるよう促す必要があります。こうした学習は「自己理解」とか「自己分析」などといって、就職活動などでは以前から行われていたものですが、現在、中学校や高校でも取り入れられています。

子どもの自己認識が不安定だという事実は、実はキャリア教育の重要性を強調するものに他ならないのです。


まとめ|不登校の進路支援とは?

以上のように、ソニー生命の調査を題材に、子どものキャリア教育について考えてきました。

キャリア教育というと、社会見学のように子どもが大人の仕事をのぞきみるイベントだと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしその射程はもっと広いもので、自己の内面と向き合う貴重な機会でもあります。

ところで、不登校の生徒はどのようなキャリア教育を受けているのでしょうか。不登校の生徒は、学校に通っていない分、通常の学習だけでなくこうしたキャリア教育での学びも遅れてしまう可能性があります。このことは先に控える大学受験などを乗り越えるうえで、大きなハードルとなります。

ただでさえ自己認識が移ろいやすい思春期です。不登校の子どもにこそ、進路支援やキャリア教育が重要だといえるかもしれません学校が注力してくれているのはよいのですが、登校しなければ、そのような教育を受けることもありません。

実は、他の教育機会がないわけではありません。

フリースクールやホームスクーリングといった学校でない場所での学びでも、キャリア教育を進めることは可能ですし、そのうちのいくつかはオンラインで実現可能です。インターネット上の動画などをうまく活用し、子どもに無理のない範囲で「世の中のこと」を知らせていくのが大切なのでしょう。

Schorbit にできること

私たちシン・ガッコウ Schorbitは、こうした部分も含めて学校を丸ごとオンラインでシミュレートすることを目指しています。ただ勉強を教えるだけでなく、進路支援やキャリア教育といった学びも重視しています。

キャリア教育に関していえば、世事に興味を持つことから始まり、オープンキャンパスへの参加、企業への見学、自己分析、業界分析や発表など、多様な取り組みを行う予定です。

目下、準備中です。2026年より本格始動を予定しておりますので、興味をもたれた方は今のうちにLINEへの登録をお願いします。