この度、公式YouTubeチャンネルの新たな展開として、不登校問題を語った動画を公開しました。
こちらは小学校、中学校、高校、大学と、年代ごとに分けて不登校問題がどのように違っているのかを語っていく動画で、前編は小学校・中学校、後編は高校・大学について語っています。
不登校問題は心理や子育ての観点から語られることが多いものの、教育や社会といった観点の説明は不足しています。この動画では、不登校生徒が「学校に通うべきか」「対人関係にどのような困難があるか」といったテーマはほとんど触れておらず、不登校を純粋に教育問題と捉えており、「進路」や「教育の機会保障」といったテーマを中心に扱っています。
ぜひご視聴ください。
~おまけ:収録時の原稿~
〇はじめに
- 教育はみんな受けてきていて、少しは経験があるので、誰でも語れる。一億総教育評論家みたいになっています。
- だから、YouTube動画を含むソーシャルメディアはポジショントークとか極論だらけ。感情剥き出しなものも多い。「学校なんてムリして行く価値なし!」みたいな。みても混乱するだけです。
- この動画は、そんな情報に踊らされないためのワクチンのような役割になるように、不登校についての基礎知識をバランスよく押さえるものにしたい。
- ちなみに、私は複数の都道府県で中高で教員をしてきたので、不登校対応は100件くらいしていると思う。ただ数でマウントとってもしょうがない。
- 自分の体験というより、客観的な事実を羅列するような動画にしていきます。
- この動画の切り口。不登校という言葉は、小中高大と、年代により扱われ方がまったく違うので、今回は年代ごとに切り分けて説明していきます。
- たとえば大学生の不登校って言葉、きいたことあります? たぶんないはず。世間話で大学行ってない人の話を聞くことはあると思います。「大学行かないで夜中までゲームしちゃってる」とか。それに対して大学生の不登校問題と捉えることがない。捉え方がない。単に本人のせいになり、家庭にも教育機関にもその責任がまったくないような扱われ方になる。
- だけど小学生はある。学校行かなくて家でゲームしているという同じケースであっても、本人はまったく問題がないけども家庭とか学校が何とかしろという考え方になる。
- そのあたりを一度、整理してみたい。観点としては、どのくらいの人数が不登校か、保護者の負担はどれくらいか、年代特有の議論はあるか、どこが問題か。
- 小中の義務教育で前編、高大で後編という2部構成にします。
〇小学生
- 今、一番熱いというか話題になっているのはここ。統計上も近年急増しているといわれるが、正確には、中学と比較して昔は少なかったことが特徴。
- 学齢が低いため、家庭の負担は大きい。家で一人にはしておけない年代なので。共働き世帯でもどちらか仕事休まなければいけなくなって大変だし、ひとり親世帯だと致命傷です。福祉との接続が必要になるのはここ。
- ホームスクールがこの年代のトピック。これの中心は小学生。それは家に一人でおいておけない年代なので親が近くにいることが多いから。(家庭教師できるじゃん、みたいなこと。)
- ホームスクールについての議論でとても重要なのは、親が傍にいるかどうかってところ。その環境が可能なのは専業主婦のいる家庭など、限られている。
- さて話進めます。そろそろ不登校ってなぜ増えたのか教えろやって人いるでしょう。でも、これはやめたほうがいい。原因は結局のところわからないし。
- 原因追及する人は、不登校の子どもをサポートすることが目的じゃなくて、叩くことが目的になっているから。学校でも家庭でも本人でも自治体でも。叩きやすいターゲットを探している状態なんで、その手の議論からは距離をおきましょう。
- その上でいうと、小学校で「いじめ」が増えているからという議論がある。たしかに統計でみるとそうなんですが、そこにはカラクリがあります。法律ができて国の方針が変わって、認知として増やすようになっている。
- 認知が増えているだけで発生が増えているかはあやしいので、信憑性がない。
- いろんな原因探しは専門家がしてくれている。社会の変化、家庭の変化、学校の変化、スマホなどのテクノロジー発達とか。今回の急増についても、ちょうど専門書とか論文になってきた辺り。まだ新書などでわかりやすく紹介はされていない。
- 小学生の不登校って親が困るのはわかったけど、その子の人生においてどんな影響があるのか。教育上の問題か? そこまで問題ではないかもしれない。家庭に負荷がかかるという福祉上の問題であって、教育上はどこでもいいから学べばいいんで。
- 教育の観点からいうと、不登校が増えたことがまずいのではなく、子どもの教育の機会保障ができていないのが問題。つまり家や教育支援センターやフリースクールで十分学べるなら、この年代の子どもなら何ら問題ないともいえる。これがこの国の公式見解になってきている。
- ただしフリースクールは無償ではないから、経済的な負担の問題があり、貧困家庭で不登校になったケースなどを想定すると、国や自治体は放置していいのかっていう議論はある。
〇中学生
- 中学生の不登校は、正確にデータが集められている中で人数が最も多くて、人数も増えているので、不登校議論の中核をなしてほしいところ。
- ちなみに先走っていうと、高校以降はデータがないといったほうがいい。不登校の定義は義務教育でないとできない、辞めてしまってもいいんだから。
- 保護者の負担はどうか。中学生になると、ずーっと目が届く範囲にいなきゃいけない年代ではないが、自分で道を切り拓ける年代ではない。
- 学校で受けられた勉強を家で自力で学べはちょっと無茶だし、進路についても同じ。高校入試も実態としては周囲の大人が探して子どもに薦めるケースがほとんど。不登校という状況から自分で突破できるほどではないから、家庭の負担はまだまだ大きい。
- この年代の不登校というと、特徴的なのが起立性調節障害。
- 起立性調節障害はそれなりに割合的に多く、第二次成長期に入ることが原因。中学生は朝弱いのに朝から学校があるから、どうしても朝に行けなくてそのまま学校にも行けなくなるケース。
- 小1プロブレムとか中1ギャップっていわれている、学校の種類が変わると雰囲気が違い過ぎるっていうのもある。小学校中学校ではよく話題になる。
- 実際、小6と中1比べたら中1の方が多い。でも中1と中2比べたら中2の方が多いから、あまり強調しすぎる必要もないかと思う。
- 中学生以降は進路の問題が本質。なにせ一次方程式とけなくても英語の比較級知らなくても、日常生活では困らない。だけどみんなが高校いくタイミングで自分だけ行けなくなったら困る。だから高校入試の話をする。
- 不登校中学生の進路は、高校に全日制と定時制と通信制があることが大事。高校からがんばって全日制に通いたいというのと、最初から通信制に通うという2パターンがある。実際、通信制の割合はかなり増えていて、全体の10%弱まできている。だんだん体裁気にしない人も増えてきている。
- 通信制は事実上、入試というほどのものはない。入りたければ入れると思ってもらっていい。だから問題になるのは、不登校の中学生が高校からは全日制に行きたいと思った場合で、このときは欠席日数が多いことがマイナスに働くことがある。
- 入試に関していうと、私立の全日制高校は不登校に関して厳しいところが多く、公立の方がゆるい。(公教育だから当たり前だが。)とはいえ都道府県ごとに違うし、不登校枠と呼ばれる別枠を設けているところもある。
- ちなみに今後の方向性としては、欠席日数を調査書という高校に送る書類に記載しないようにしようとか、不登校が不利に働かないような動きが進んでいる。
- しかし欠席が高校に伝わっていなくても、評定、いわゆる内申点がちゃんとついていないなどの状態だと、それが不利に働くことはありうるので注意が必要。
- なんにせよ入れる高校があるかって意味で言えば、ある。だけど行きたいところに行けるわけではない。全体の傾向としては、選抜に関しては学力が最大のファクターなんで、そこはある意味で学校通っていても平等。
- 不登校の中学生が気にすべきは基礎学力。教室という場で授業を受けていないことより、実際に教科書の内容を理解していないことを深刻に捉えるべき。高校側からしても、基礎学力みについていないのに高校いったら単位とれないってのは事実だから。
- それでいうと、世間の議論が居場所づくりに向きすぎているけれども、不登校は「勉強遅れちゃうのが危ない」って普通過ぎることを言っている人が少ないのは前から違和感がある。
- 保護者も本人も中学校でのかけがえのない思い出、たとえば修学旅行とかが無くなってしまうことを一番気にしているふしがある。まあしかたないが、ドライな言い方すれば勉強していないことの方がまずいって話。
〇高校生
- ここから世間の扱いが雑になる。理由は簡単で、義務教育じゃないからってことと通信制があるから。通えなくなったら不登校という立場で存在するのではなくて、全日制に通えないなら転学するか退学するしかない。つまり不登校というフレームそのものが高校以降は通用しなくなっている。
- 通信制についてはさっき話したので、ここでは転学や退学する事情について話す。
- 不登校とは、病気や経済的理由でないのに年間30日以上欠席している状態を指す。ところが、高校は3分の1以上、授業を休む(欠課)と、単位がもらえないというか履修が認められなくなる。だから進路どうこう以前に進級や卒業ができなくなる。そこで全日制から通信制に転学するなり、退学するなりといった選択をする。そうしたらもはや不登校としては扱われない、ということ。
- なので統計上の信頼できるデータはないが、年代に占める割合でいえばかなり多いと推測される。つまり通信制の高校生は通わなくてもいいわけだから、不登校と呼ばれなくなるだけで、その年代で毎日一定時間の学習をしていない子どもが多いって事実自体は変わらない。
- 高校の不登校の増加は、通信制の増加という現象として現れている。
- 保護者は時間がとられるなどの負担は小中に比べて減る。高校生は家で一人にしておくことができるから。
- 保護者からみて、将来大丈夫かといった心理的な不安は変わらない。また、金銭面での負担がある。例えば転学するとお金もかかります、「入学金またとられるのー」みたいな。
- 心理的不安についてですが、高校→大学は中学→高校と違って、保護者が決定することは少ないんだから、あまり気にしすぎることはない。
- 通信制高校はたしかに卒業しやすいので多くが卒業しているが、卒業後の進路不明というのの割合が少なくないので、やはり問題はある。
- それより問題と思われるのは、大学や専門学校に進学しても通学できなくてすぐやめてしまうっていう問題、これはまだあまり世間に知られていないけれども起こっている。そんな学生のために通信制大学というのもできている。
- 不登校でも大学や専門学校にいけるかというと、いける。定員割れしているところがあるから。難関大にいけるかといえば、学力次第。(学力の背景を度外視すれば、平等である。)
- 問題の本質はここでも学力。高校に毎日通っていないのはいいとして、毎日学習していないのは問題だ。ところが、高校生になると学習内容が難しいため、そのへんの大人がフリースクールで教えるとか、親が家庭教師をしたりとかできないので、通信制サポート校が生まれた。他にも塾や予備校とか学習アプリとかが重要。
- すこし深掘りする。高校入試に比べて、大学入試は多様であり、王道の受験というのがない。大きく分けても学校推薦型、総合型、一般と3つある。一般に関しては、不登校だとか通信制卒業だとかが不利に働くことはない。
- 不登校が不利に働くのは、学校推薦型選抜。この方式だとおおむね影響あるが、中でも指定校推薦という制度を利用する場合は、学校内部の推薦基準に休みが多いと抵触して推薦もらえなくなることがありうる。この指定校というのは、多くは全日制高校にある。だから全日制高校に通っていて、休みがちだけどなんとか卒業できそうという高校生は、指定校もらえないのが普通だということ。
- 高校時代の欠席日数を気にするか否かという欠席日数を嫌う学科は看護など、資格試験や実習がつきものの学科。
〇大学
- 誰も知らないかも、少なくとも私は実態をしらない。でも大学を辞めた理由の一つに不登校は少なくないだろうから、実際には多くいるとみるべき。
- 冒頭にのべた通り、この年代になると不登校が問題にさえされていない。たとえば留年率が高いとか退学率が高いということが、制度上の問題だとする見方がそもそもない。その学生の責任、ということになる。
- とはいえ、昔に比べるとサポートは手厚くなっている。せっかく入った大学をやめてしまわなくても済むように、大学側もいろんな工夫を始めている。
- 私が訪問してきた限りでは、おそらく入学難易度の低い大学、Fランクといわれているような大学から、そういったサポートを手厚くしているように見える。私が大学生のころはこんなに事務職員にサポートしてもらったイメージないなあと思う。
- 就職のサポートを手厚くなっていますね。余談ですけど。
〇まとめ
- 年代ごとによって不登校の見え方が違う。そこをわけて理解しましょうねという話でした。
- 教育問題は極論を語る方が多いので、YouTubeのHowTo動画みて学ぼうとすること自体、あんまりおススメではない。
- 本で学ぶのはまだいいとは思うんですが、これも粗製乱造されている状態。私もいくつか読んでいるんですが、決定版としておススメできるものは今のところないです。もしおススメあったらコメント欄で教えてください。